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蔵前仁一『バルカンの花、コーカサスの虹』(旅行人、2014) [本と雑誌]

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蔵前仁一さんの最新刊で、バルカン半島(2013)、ルーマニア(2009)、コーカサス諸国(2010)への旅行記。

前作『あの日、僕は旅に出た』にも書かれていることだが、もともとグラフィックデザイナーだった(今もそうだけど)蔵前さんの関心は、現在では美術や建築や民具などに向かっている。だからルーマニアの農民博物館で見つけた半地下住居を求めてワラキアの田舎の村まで脚をのばしたり、「塔の家」を探してグルジアの谷の奥へ分け入ったりする。バックパックをかついで旅すること自体の楽しさが前面に表れた『ゴーゴー・インド』(凱風社、1986)や「ホテルアジアの眠れない夜」(凱風社、1989)から四半世紀の移り変わりが感じられる。

身の回りにはときどき、経験を重ねることで好奇心が摩滅し、かえって何を見ても感動できない「すれっからしの旅行者」になってしまう人がいるけれど、見てみたいもの、調べたいものに対する蔵前さんご夫妻の熱の入りぶりは変わっていない。「塔の家」を求めてグルジアの辺境の谷を分け入ったウシュグリという村での描写、具体的には「残念ながら」以下の10行は、とりわけ心に残る(pp.284-5、カバー写真にもウシュグリで撮影された風景が使われている)。大げさなことは何も書かれていないが、旅の感動が伝わる。

たまたまバルカン半島諸国やルーマニア、コーカサスにもほんのちょっとだけ行ったことがあるので、同じ町の同じものを見ても、そこから芋づる式に呼び起こされる興味の方向や質がこんなふうに違うのか、と楽しみながら読むこともできた。
また、交通機関の所要時間や運賃、宿代、現地の人の月給なんかがそのまま書かれているのは、旅行者向け情報ではなく、社会史的な価値を意識されているのだと思う。特に本書で扱われている地域は、経済的な浮き沈みが激しいところでもあり、何十年かに読み返せばその数字自体が面白いに違いない。

 
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