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中井久夫集4 「統合失調症の陥穽 1991-1994」(みすず書房、2017) [本と雑誌]

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目立たない論考だが、「危機と事故の管理」を読むと、管理者としての中井久夫さんの素顔が現れていて、精神科医による文章が世の中にたくさんある中で中井久夫さんがよく読まれる理由の一つに、管理者としてのセンスの良さ(をうんぬんする立場にないけれども)があるのだと思う。人命を相手にする仕事だけに、現場で起こるアクシデントにもシリアスなものが多いわけだが、それらに対する臨み方について語られていることは、医療以外の世界で管理者を務めている人々にとって、たいへん納得のいくものであり、また示唆に富むものではないかと思われる。

もう一つ、私が中井久夫さんの論考に共感を覚えるのは、「症例検討会では、住んでいる地域の地理的条件を私はよく問題にする。」(『治療文化論再考』p.285)姿勢だ。「入れ物の形に中身を合わせるように体験を加工しがち」(p.284)な者が多い中、自分はそうではないと明言しているので、この点については自信をお持ちだったのだと思う。この基準ないし座標の持ち方が、中井さんの著作に影響を与えていることは相違なく、それが読者を増やしているのではないかと想像する。

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