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中井久夫集2「家族の表象 1983-1987」(みすず書房、2017) [本と雑誌]

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「治療文化と精神科医」で描かれる日本の地域性(地方ごとの疾患の現れかた)が、自分の実感と(また、世間でよく言われることと)一致しているのに驚く。単なるイメージでなく、実際の疾患の内容自体に大きな地域差があるとすれば、それは精神的風土に関して、少なくともこの稿が書かれた時点において、国内に大きな地域差が実在したことの裏付けに外ならない。

めっぽう面白いのは「ジンクスとサイクルと世に棲む仕方と」で、しかしいい加減な話ではなく、それが存外合理的なものであることを指摘し、また、医療の世界自体がそうした巨大な自然現象に対して小さな力しか持ちえないことを述べる。「医療の世界が、船乗りの世界のような、ジンクスの多い社会に思えてくる。いかに大きな船舶でも大洋に比べてはものの数ではない。」(p.68)「あかあかと灯をともしながらひっそりと静まりかえっている深夜の病院も、暗夜の海を行く巨船である」(p.69)というくだりは、なるほどそうだと思わせるものがある。(「ジンクスとサイクルと世に棲む仕方と」)

もう一つ、「強い相互作用と弱い相互作用」という考え方は、家族だけでなく、社会のあらゆる場面で有効なツールになりうるもので、例えば直属の上司と部下の関係が強い相互作用だとすれば、同期入社の社員同士はやや強い相互作用、社内の勉強会やサークルは弱い相互作用ということになるのだろうけど、いまどきの組織で求められているのは、弱い相互作用にもとづいた「社員の安全な居場所」をつくることだったりする。(「『つながり』の精神病理」)


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