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第147回深夜句会(8/6) [俳句]

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(選句用紙から)

広重の雨の中なり百日紅

 季題「百日紅」で夏。真夏の強い日差しとあわせて詠まれる句が多い中で、この句は夏の 雨のなかの百日紅を詠んでいる。降りかかるその雨が、「広重の雨」だというのだ。斜めの 細い線で歌川広重が描く、あの雨である。広重の雨は、なにも夏に限ったものではないだ ろうけれど、にわかに降り出した強い雨に右往左往する人の様子などが思い浮かび、そう すると、この百日紅も、そうした、人が行き交う広い道に植えられているのだろうか。

ひぐらしや母の籠つてゐし書斎

 季題「蜩」で秋。かつて母が使っていた書斎で調べ物か書き物かをしていると、窓の外でひぐらしが鳴いているのが聞こえる。哀れをともなうその音色に、ふと、母がここにこ もっていろいろな仕事をしていた頃のことを思い出す。甘すぎない母恋の句。

マンションと擁壁の間の梅雨晴間

 季題「梅雨晴間」で夏。すこし鑑賞が難しいが、マンション「の」でなく、マンション「と」なので、マンションとは別の構造物として擁壁があることになる。そうすると、ま ったいらな場所のマンションなら擁壁の出番はないので、丘陵地の斜面とかに、段々畑の ように土地を造成してマンションが建てられているような状況が想像され、その擁壁とマ ンションのあいだの、二本の直線で切り取られたような空が、きょうは梅雨の晴れ間を見せている。

洗ひ髪伸ばすつもりもなく伸びて

 季題「洗ひ髪」で夏。洗い髪が⻑いことをいうのに、直截に⻑いとは言わず、「伸ばすつ
もりもなく伸びて」という含みのある表現をとった。当節だと、理屈をいえば「行きつけ の美容室がずっと休みで、仕方なく」みたいな鑑賞もできるのだろうけど、それはあまり 楽しくないので、やはり「伸ばすつもりもなく伸び」た事情を詮索...いやなんでもない。

(句帳から)

地図上は破線の径がある夏野

 

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池澤夏樹・池澤春菜『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版、2020) [本と雑誌]

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 本好きな人なら誰しも、15歳ごろまでに好んで読んだシリーズとか作者があるはずだが、この二人がどんな本を読んできたのか、どの本のどんな細部に惹かれたのか、それを聞くだけでも楽しい。たまに自分と同じ経験をしていたり、自分の好きな本を評価していたりすると、なお嬉しかったりする。
 他方、「そんな本があるのか!じゃあ注文しよう」となってますます本棚がふくれあがる悪夢が…

 第7章の「読書家三代 父たちの本」(この7章だけでも、この本を買う価値がある)に続いて、巻末に「父の三冊」と題するエッセイが置かれ、そこで池澤夏樹が福永武彦の、また池澤春菜が池澤夏樹の三冊を選んでいるのだけど、それが一冊たりとも、自分(藪柑子)が考える三冊と重なっていないのが面白い。


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