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津村記久子『エヴリシング・フロウズ』(文春文庫、2017) [本と雑誌]

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読み始めてまもなく、あれっと思う。これって『ウエストウイング』の続編なのでは?
カバーにも解説にもそれらしい記述は一切ないのだが、名前だけでなく、同じ学習塾出身の3人という設定なので、間違いないだろう。もちろん、この本だけ読んでも楽しめるのだけど、『ウエストウイング』でヒロシがかかえていた母親との葛藤が、ここでは別の形で展開される。

いわゆる「見せ場」のようなものがあるとすれば、終盤に二人が駅で別れを惜しむ場面(pp.380-2)だと思うし、事実このシーンは、陳腐な表現だが映画のワンシーンのように美しい。でも、読者がこのシーンにぐっとくるのは、それより手前、二人の気持が通じ合うことになるこの会話(pp.351-2)があるからこそだと思う。そしてここでは、問いかけるヒロシの言葉も、ヒロシの立場でなければ発せない言葉だし、答える紗和の言葉も、なぜ紗和がそのように生きているのか、なぜ紗和の母親はあんなふうなのかまで簡潔に言いつくしていて、そこにいつもの韜晦はない。

そして、これは多くの方が言及されていることだが、そうしたやりとりが、一貫した信念や主義主張にもとづいてではなく、その場で考えてそうしているところが、この本の最大の眼目なのだと思う。理路整然として首尾一貫しているけど内容は(首尾一貫して)どうしようもない大人とかいっぱいいるわけなので、相互に矛盾していてもかまわずその場の最適解を必死で考える中学生の姿に心打たれる。こういうところが、自分が津村作品に惹かれる大きな理由なのだと思う。ついでに言えば、自分が中学生のころは(いや今でもか)、こんな気の利いた発言も行動も全然できなかったわけで、6人ともすごいなと思う。
 

 




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