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第168回深夜句会(5/19) [俳句]

(選句用紙から)

代田かな売物件の札立ちて

季題「代田」で夏。代掻きが終わり、水をたたえて田植えを待っている田んぼに、どうしたことか「売物件」という野立て看板が立っているというのだ。代田だからして、その水面に「売物件」の文字が映ったりしているのであろうが、それより何より、これから田植えをしようという場所が売りに出されているという奇妙な事実が、かえって俳句的である(これが「刈田」とか休耕地に看板が立っているとしたら、印象がだいぶ違ってくる)。農地は自由に売買できないんじゃないのというツッコミはまた別(いや、市街化区域内の水田なのかもしれないし)。

春時雨はれて夕日の甍かな

こういう句を鑑賞するとき俳人は、「春時雨」が本来の(冬の)時雨とどう違うのかを気にしながら読むのだけど、時雨があがって差し込んできた夕日が、瓦屋根にやわらかく当たっている様子は、いかにも春の風情というか、人によってはつきすぎと感じられるかもしれない。もう少しいうと、時雨という気象現象は、国内の比較的限られた地域でよく起こるのだけど、その限られた地域はまた、寺社がたくさんある地域でもあって、そうしたこと(民家の甍だって構わないのだけど、大きな寺の本堂のような、大きな面積をもった瓦屋根に夕日があたっている様子)も連想させる。

検疫の列に並びて明け易し

2022年5月の句会なので、これは帰国時の句として読むのだろうけど、仮にそれを抜きにしたとしても、これは俳句たりうると思った。すなわち、夜行便で長時間まどろんだ末、夜明けに到着したどこかの国で、入国のために最初に通過する関門(検疫)に長い列ができているという状況だ。こんにちなお検疫という関所が意味を持っている国は、そういう必要がある国なわけで、たとえばイエローカードがないと入れない国で、1人ずつ提示してチェックを受けるために長い列に並んでいる、といった状況が想定される。なかなかに気が重い風景であるが、他方で、その国(夏を迎えたその国)で何が始まるのだろう、といった心の動きも感じられる。


(句帳から)

鎮守の森代田に浮かぶやうにあり
金雀枝をポットに植ゑて美容室

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