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津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』(朝日文庫、2021) [本と雑誌]

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「この世にたやすい仕事はない」(2018)に出てきたフットボールチーム「カングレーホ大林」が現れてちょっと驚く。名前の由来がわからないが、なんで「大林」だけ架空の地名なんだろう。また、地名の単位が小さければ小さいほど、そこから想起されるイメージが具体的になるので、ストーリーもリアルになりやすいような気がする。たとえば、旧国名でもある「土佐」「出雲」と、「川越」「遠野」「白馬」などのスコープの違いは明らかで、どちらがいいという話ではなく、読み手が受ける印象が異なったものになってくる。

第10話「唱和する芝生」が最も楽しく読めた。ここに出てくる曲のほとんどを知らないが、それでも楽しく読める。この第10話の主人公は、それほど重い屈託を抱えているわけではなく、この点が津村作品のコアなファンには物足りないと感じられるかもしれないが、シンプルなストーリーのなかに、人がなぜ生きていけるかの示唆があるように思われる。

また、私はフットボールを全然知らないが、だからこの本が楽しめないということは一切なかった(知っていたらもっと楽しめる点があるのかもしれないが)。だから、フットボールを題材にしているとはいえ、これを「サッカー本」と呼ぶことにはちょっとためらうものがある。それは、「この世にたやすい仕事はない」を「お仕事小説」と呼ぶことがためらわれるのと同じだ。
 

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