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ジェフリー・トゥービン『ザ・ナイン アメリカ連邦最高裁の素顔』(増子久美他訳、河出書房新社、2013) [本と雑誌]

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 英米法の初歩的学習にあたって、面白そうなエピソードが拾えればぐらいの気持で購入したが、エピソードどころではない浩瀚なノンフィクションで、しかも最高裁の9人の判事が交代しながら織りなす人間模様を大河ドラマのように描き出している。行き帰りの電車の中で読むにはちょっと重い(キッチンスケールで測ったら583グラムもある)のだけど、かまわず読み続ける。

 人はよく「アメリカは○○だから」的なことを言い切りたがるものだし、実際そういう傾向があることは確かであるとしても、これだけ激しいせめぎ合い―傾向Aと反Aが常に拮抗し、せめぎあい、時にわずかな差でAから反Aにスウィングする―中で、差引のわずかなA'だけが結論とされているのであって、アメリカ全体が金太郎飴のようにAだと誤解してはならないということが教訓。またこの拮抗こそが、逸脱からの復元力の源泉であって、そこにアメリカの強さがあるとみることもできる。

 …とか偉そうに書いているのだけど、実のところ、このぐらいの基礎も知らずに連邦所得税法について延々と論じていた自分の修論って何だったのかという冷汗も(恥)

 また、専門的知識に裏付けられたエディターシップと綿密な取材にも圧倒される。本人に丹念に取材しなければわからないようなエピソードや心境が次々に現れるのだから、ものすごい量の取材をして、そのほんの一部だけを使っているのであろう。しっかり裏をとっていることもうかがえる。そのような取材に応じる裁判官も、それを不思議に思わない国民もすごいが、何気なく読みすごしてしまいがちなこれらのことは、当節ネット上に溢れる「俺様的真実」の対極にあるものといえよう。

 日本語訳の読者のために一つだけ注文をつけるとすれば、米連邦最高裁が扱う訴訟は、もともと範囲が限定されている上に、その中から最高裁が選んだものに限られる(裁量上訴の制度)という点を説明してもらえば親切であるように思う。

 なお、訳者あとがきによれば、米国では本書の続編にあたる『宣誓―オバマ・ホワイトハウスと連邦最高裁判所』が2012年に刊行され、ベストセラーになっているという。これはぜひ読みたいところ。

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