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鷲田清一『京都の平熱』(講談社学術文庫、2013) [本と雑誌]

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京都出身の哲学者鷲田清一さんが、生まれ育った京都のあれこれを、市バス206系統に沿って反時計回りにぐるっと紹介するという設定自体がまず面白い。とりあげる対象も、家族経営の小さなレストランから巨大な新京都駅舎、果ては五山送り火へのある悪戯の顛末などさまざまで、楽しみ、また考えさせられるものばかり。

次に、その筆致が、京都天動説的でなく、また名所旧跡や商店に客を呼び込む目的もなく、むろん何かを攻撃する暴露本でもない落ち着いたものであって、「京都に住むと、こんなことがこんなふうに転がっていくんだ…」と腑におちる。

その上で、淡々と語られる数々のことがらのところどころに、観光ガイドや関東の人間が感じるのとは違った熱い思いが感じられて、それが大変好ましい。「ああ、ここ力入ってるな」という感じが明瞭に伝わってくる箇所としては例えば、
・高層建築がコミュニティに与える本当のインパクトとは(pp.68-71)
・敗戦後の満州の中学校の話、そして番組小学校の話(pp.156-8)
などで、このような信念こそが哲学者鷲田清一の根底にあるのだと思われる。凡百の京都紹介本を売り払ってでも購入したい一冊。
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