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前北かおる句集「ラフマニノフ」を読む(1) [俳句]

ご恵贈いただいた句集を,毎週末の新幹線でゆっくり読む。
季題から出発して,類句の沼を慎重に避けながら,でも屈託なく詠んでいる「まっとうな感じ」がとてもいい。

新駅へ徒歩十五分豆の花

季題「豆の花」で春(四月)。
畑の風景なのか,空き地や土手の風景なのか少々迷うが,ここでは仮に,都市近郊の小さな畑あるいは市民菜園みたいなところであろうか。そこにソラマメとかえんどう豆の花がちょろちょろ咲いている。で,その畑を切り刻むように,新駅へつながる道路が造成され,ぜんぜん生活感のないマンションなんかが建ち始めている,そういう風景を「新駅へ徒歩十五分」で説明せずにすぱっと言い尽くしている。

保母さんの独りのつぼや青き踏む

季題「踏青」で春。春の野遊び。
保母さんの「一人」だと,何人かいる保母さんのうちの一人が,になってしまうのだけど,「独り」なので,保育園の園児を連れてきている保母さんが,大人だからということでなく,ことさらにのっぽであると詠んでいる。そのまわりにいる園児たちを含めた場面が,園児とか何とかいわなくても再現できてとても楽しい。

飛行機の小さな窓に山笑ふ

楽団を待ちをる椅子や秋灯下

この句集でいちばん気に入った句。コンサートホールのステージにあかりが灯り,楽員が黒い服で出てくるのをお客さんが待っているのだが,ふと,ステージ上の一つ一つの椅子がそれを待っているように思われる(いくつか前の記事に,偶然そういう写真があるけど)。黄色みをおびた照明とステージの木の色,楽員の黒い服といった色彩感,秋のともしびの温かさ,これから奏でられる音楽といったさまざまな感覚を刺激してくれる句でもある。ただ,椅子が「楽団を」とするより「楽員を」のほうがいいと思うがどうであろうか。「楽団を」だとそれらの椅子全体として,になるが「楽員を」なら一つ一つの椅子がそれぞれの主である楽員を,になるので,より親密な感じになるのではと思うが。

式までの教会通ひ春隣

信仰篤い人だったら「式までの教会通ひ」にはならないのだけど,そこは承知の上でいまどきのカップルを自分でなかば揶揄しつつもしあわせを噛みしめている感じ。理屈を言い出すとつくれなくなってしまう句だが,自然な感じで仕上がっている。

町の名の山のそびゆる避暑地かな

これも気に入った句。「町の名の山」なのか「山の名の町」なのか本当はよくわからないのだが,高原の夏の風景。

冬凪や航跡いつまでも残り
「いつまでも」に賛否があるかもしれないが,この情緒は捨て難い。冬の荒海が,きょうは珍しく凪いでいるということへの驚きやいとおしみも感じられるので。

牛洗ふ淵に芥の漂へる
冠着の次が姨捨月今宵


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前北かおる

 ありがとうございます。
 「楽団」と「楽員」、句集に入れる段階での推敲はしていませんが、作った時には一瞬どちらにしようかと考えました。その時は、余り深く考えずに椅子の数が見える方をとりました。どこまでもクールにいくか、それとも情を通わせるか、「秋灯下」だけに悩ましいですね。ゆっくり考えてみます。
by 前北かおる (2011-06-05 22:45) 

やぶ

かおるさん,ごぶさたしています&コメントありがとうございます。

季題が「秋灯」なんで,いろいろ考える余地はあると思いますが,あくまで一つの考え方として書いていますので,どうぞ聞き流していただければと思います。

「ラフマニノフ」「ドビュッシー」「エルガー」「ショスタコーヴィチ」と出てくると,クラシック好きとしてはいろいろ言いたくなる(笑)わけですが,それはまた次回に。

by やぶ (2011-06-06 00:53) 

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