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夏合宿2日目 [俳句]

 ほとんど徹夜で日盛会の原稿を割り付け,やっとの思いで完成したPDF版をメモリに移してから早朝の新幹線に飛び乗り,志賀の山中へ急行する。大学俳句会の合宿に2日目から合流するのだ。運動部やオーケストラならいざ知らず,俳人が合宿形式で何をするのかといえば,もちろん吟行と句会(と宴会)である。一日三回三日分といえばなんだか薬の処方のようだが,実際,合宿はいい薬になる。

 宿についたのが午前11時。一行を追いかけて前山リフトにのぼり、渋池・ひょうたん池を経て木戸池までわずか20分で歩き,田の原で追いつく。一行はワイン2本あけて昼食中。いいなあ。グループで一日山のなかを歩き,同じものを見ているので,句会になると「あのことをこんなふうに詠めるのか…」という驚きの連続。ここに合宿の面白さがある。

 大学の俳句会なので,現役のメンバーは毎年4分の1づつ入れ替わっていくが,最初に合宿をはじめた1981年からことしで25年,その間にOBやOGがどんどん増えていって,いまでは現役よりもOB・OGの参加者が多くなっている。

〔午後の句会@16:30〕
(選句用紙から)
 水澄むや道草めいた小流れも
 秋の川の流れ。コンクリートの護岸に固められた川とちがって、原野のなかを好きなように流れる川にはいくつもの流れができる。石がちの川原でも、秋草の生い茂る小川でもいいが、一番流れの多い部分と、ゆっくり流れる部分があるわけで、それを「道草めいた小流れ」と叙した思い切りのよさが眼目。そして、その小流れももちろん秋の澄んだ水だということ。

 湖を一ト周りしてやや寒し
 車か自転車か徒歩か。湖の大きさもわからないが、すでに人気のない秋の湖であることがわかる。「秋寒し」では強すぎて、何しに湖へ来たんだかわからない。避暑の延長線上の気分で来たらやや寒い、という気持ちの描き方も大事。

 雨の野を暖炉恋しと戻り来し
 暖炉があって雨の野を歩いてくるのだから、山小屋かヒュッテか。「登山」は夏の季題だが、ここでは「暖炉」が季題として使われているので、秋から冬ということになる。雨の中を秋の山野へ出て、楽しみながらも雨にふられて暖炉が恋しく、山小屋へ戻ってきたということで、激しいアップダウンをともなう登山というより、上高地の明神池散策とか北八ヶ岳の池巡りとか、そんな風景が想像される。

(句帳から)

 ループ橋巻きついてゐて秋の山→添削「巻きついてゐる秋の山」
 溢れつつ瓢箪池の澄めるかな
 リフト小屋見え隠れして芒原

 夕食のあとで外へ出てみると,一匹だけ蛍がいる!葉にとまってじっとしているので,場所がわかればずっと見えているのだが,真っ暗な山の中に一匹だけのほたるは,なんともいえずはかなく見える。

〔夜の句会@20:30〕
 指導者のA先生が所用で夕方帰宅されてしまったので,年かさのOB・OGが指名により代選することに。規定選句数+5句という微妙な句数で,句評つき。どっちみち,いつも同じようなことを話すだけなので負担にはならないが,規定句数でもなく取りきり(無制限)でもないというのはけっこう大変だということを思い知る。

(選句用紙から)
 
 杣道に梅鉢草の案内かな
 木こり、そまびとの使う道だからもちろん山奥。そこに白く端正な梅鉢草の花。荒々しい木こりの世界と梅鉢草との対比。梅鉢草がただあるだけでなく自分を「案内」してくれるというのもいい。
 薪燃えてときどき爆ぜて夜長かな
 「ーして、ーして」の繰り返しが、長い時間を表現していて効果的。

 灯火の如く竜胆花となる
 竜胆の花を灯火に例えました、で終わらせるには惜しい、面白いく。青い(濃紫の)灯火だというのだ。俳句で青い火となると、ガスの火ではなく鬼火とか狐火というところだろうから、そうなると竜胆のイメージもぐっと変わったものになる。このイメージの転換こそ、この句の最大の効果。

 稜線の黒く残りて秋の暮
 類句がありそうといえばありそうだが、そんなことを気にしてもしかたがない。見てのとおりという句であり、しかも暮れの早い秋の風景をよく描けている。「春の暮」ではピンとこないし「冬の暮」では強すぎる。外をずっと歩き続けたり、あるいはキャンプ場から見ているにしても、ここは結果的にも秋の暮がベスト。

 霧のふかくとも晴れても一人かな
 霧の中を一人で歩く風景としてふさわしいのは稜線の単独行。霧が深ければ方向や上下左右さえわからないし、霧が遠ければ何百キロ先まで見通せる。その落差を受け止め、楽しんだり苦労したりするのもすべて登山者である自分だ。上五と中七に句がわたっているためにすらすら読みくだすことはできないが、それがかえって「一人かな」へすぐ行かずに考えさせるという効果を持っている。ある種の晦渋を意図してつくりだしているということ。それを是とするか否とするかは読み手の考え次第だが、ここでは有効に機能していると思う。

(句帳から)
 一匹のことし最後の蛍かな
 白樺の黄葉するそばから落つる

句会のあとは、恒例により夜中まで宴会。


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