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藤岡陽子『手のひらの音符』(新潮文庫、2018) [本と雑誌]

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以前に友人から勧められてから、気になりつつ手にとる機会がなかった本が地元の書店の文庫平台に積まれている。腰巻きの惹句に「良い小説」とあるのはちょっと引っかかるところで、小説に「良い」「悪い」のモノサシを持ち出すのは違うと思うが、そう表現したくなる気持ちは、読んでみてよくわかった。

この小説には明確に「いい人」とか明確に「悪い人」というような人物は登場しない。それぞれが弱いところを持ちながら、なんとか道を模索していく過程で、助け合ったり傷つけあったりする、そういうストーリーが、読者の共感を得ているのだと思う。

また、俳人(のはしくれ)としては、季節の描写がよくできていて、それがストーリーに立体感をもたらしているところも見逃せない。例えば、
(以下引用)
窓の向こう側の新緑を、水樹は眺める。目に染みるような田んぼの緑が息をのむくらいに美しい。新幹線は滋賀を通過したところだ。東京を出てからまだ二時間も経っていないのに、光を帯びた瑞々しい田や畑が
果てしなく続いていて、それをぼんやり眺めているだけで固く張っていた心が緩んでいく。(p.64)
(以上引用終わり)

というようなところ。

あとがきを読んでみて、この作家には既に何冊も著作があることがわかったので、さっそくもう1作品、『いつまでも白い羽根』を読んでみることにする。

 

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