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リチャード・ホーフスタッター/田村哲夫訳『アメリカの反知性主義』(みすず書房、2003) [本と雑誌]

きのう(12/10)の「クローズアップ現代」を見ていたら、読書に関する文化庁の調査結果が紹介されていて、調査対象2千人の47.5%が「1か月に1冊も本を読まない」のだそうだ。こういう話は通常、「困ったこと」として紹介されるし、むろんこの番組もそういう趣旨だったのだけど、番組を見ながらふと思ったのは、いまや状況は全く逆で、本を読まないことが社会的に要請されているのではないかということだった。もっと有体にいえば「本なんか読んで余計な知恵をつけられると困る」と思っている方々が一部に存在するのではないかなあと。

現に、政府高官が「学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています」とか発言しているわけだし。
2014.5.6 OECD閣僚理事会における基調演説
これが「学術研究を深めるだけでなく、…そうした新たな枠組み取り込みたい」なら何の問題もないのだけど、そうじゃないのでね。すでに一般教養は解体され、さらに専門教育も壊されたら、大学に残るものは何もないわけで、それなら最初から資格試験予備校へ行けばいいわけですな。

ネットの世界には「真実」とか「正しい」なんて言葉が氾濫しているのだけど、そういう言葉を無造作に使う御仁が身の回りにいたら、うさんくさいと感じるのが常道ではないかと。学術の世界に短期間でも身を置いた者なら、何が「正しい」かを論じることの難しさはわかるだろうし、そもそも皿回しの世界における「真実」とは相対的真実にすぎないとされていることもご高承の通り。

3秒で世の中がわかりたいという願望はいつの世の中にも(自分にも)あると思うけど、紙の本だと、自分の知りたいことにたどりつくまでの過程があるので、その過程で「おや?」とか「あれ?」という気づきがあって、それが自分の軌道修正につながっていく。しかし、自分の知りたいことだけをネットでピンポイント的に知ろうとすると、そういう修正が効かないし、さらに、ピンポイントで釣り上げたその答えは、誰も責任を負わない落書きなので、いっそう始末に負えない。3秒で世の中がわかりたいとか、すべてのものごとに明快な原因や理由があるはずだという願望自体が、そういう白黒二元論的脳内回路をつくりあげてしまうのだということに気づいてほしいのだけど。正義の味方と悪人しか出てこないようなクソ小説ばかり読んでいたせいで読者の行動様式もそうなってしまうのか、そういう行動様式の人間だからそういう小説をいいと思うのか、そのあたりは謎である。

Hofstadter.jpg

前置きが長すぎるのだけど、そうした「3秒で世の中を理解したくて、正義の味方と悪人しか出てこない世界観を持った人々」が当然感じるべき後ろめたさを覆い隠す免罪符が「アメリカを愛する心だ」というのがホーフスタッターの説明するところだ。遠い異国の、50年以上むかしの書物とはとても思えない。


しかしまた、これこそアメリカだなと感じるのが、どうしようもない反知性主義と、専門家集団による高度な知性とが、常にせめぎあい、拮抗していることこそがアメリカ社会の本質であり、それが合衆国という組織の活性化や復元力につながっているのだということ。つまり合衆国には復元力があり、ある方向に傾いてもまたそれが元に戻ってくる。それが東洋のどこかの国との大きな違いなのだと思う。その合衆国でさえ、イギリスから見ればずいぶんと右往左往しているように見えるが。

また、1950年代の反知性主義流行を終息させたのがスプートニク・ショックという現実だったという指摘は面白い。現実をつきつけられたときに、ファンタジーにケリをつけて現実的に対応するのか、いっそう強固にファンタジーに引きこもるのか、この違いは当たり前のようだが重要な違いであろう。

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