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三浦しをん×岸本佐知子トークセッション「いま,ことばを編むということ」(2/4) [本と雑誌]

上級演習が終わって頭の中は麻婆豆腐状態(ぐちゃぐちゃ&ひりひり)だが,倒れている暇はない。総武線の黄色い電車に乗って紀伊國屋サザンシアターへ直行。

入口にはすでにお客さんの列ができていて,見た感じ平均年齢は30歳代半ばぐらい。その80%以上は女性で,岸本さんファンとおぼしき女性(なんとなくそれ風)と,三浦さんファンとおぼしき女性(やはりなんとなくそれ風)のどちらも感じがよいのに対し,残り20%の男子がどうもイケてない。これはどうしたことか(そういう自分もでしょ)。
指定された席についてみると,おお,ほぼ最前列ではないか。すばらしい。

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全国の紀伊国屋書店スタッフが選ぶ「キノベス!」2011年のベスト1に三浦しをんの『舟を編む』が選ばれたことを記念して,2010年のベスト1『いちばんここに似合う人』の訳者岸本佐知子さんとの対談が実現したもの。抱腹絶倒のやりとりの一部は,以下のとおり。

(岸本さん(以下K))一昔前まで,翻訳者の三種の神器といえば「リーダーズ英和辞典」とその補遺のようなもの(やぶ注:リーダーズプラスですね),そしてランダムハウス英和大辞典といわれていた。リーダーズは今は電子辞書になっているが,いつも本棚にささっている辞書から「スーパートリビア辞典」と「Catch Phrases」を持ってきた。駆け出しの翻訳者のころ,海外留学や海外生活の経験もないので困っていたころ先輩に勧められた辞書で,ちなみに前者は,若き日の片岡義男さんが帯に推薦文を書いている。
(三浦さん(以下M))いつも使っている辞書は,手元から順に「岩波国語辞典」「新明解」で,この2つの辞書は必ずひいて比べることにしている(1つだけだと,その解釈が本当なのかわからないことがあるので)。もう少し大きいのは「広辞苑」と「大辞林」,そして最後は「日本国語大辞典」で,これは大きくて重いので床に広げて読み,机に戻るまでに忘れてもう一度引き直したりする。
(K)「日本国語大辞典」はお父さまと共用なの?
(M)とんでもない。他人と辞書を共用するのはいやだ。辞書はマイ辞書であってほしい。
(K)小説のネタやあらすじはどうやって決めるのか?
(M)雑誌の束見本を使った「ネタ帳」に書いていく。それ1冊でほとんどの小説のネタが収まっていて,『舟を編む』は見開き1枚で収まった。編集部の間取りや建物の感じ,登場人物の名前,主人公が「私」か「僕」か「俺」かなどを考えて書いていく。
(K)『舟を編む』のまじめは何だっけ?
(M)「俺」。あのキャラクターだと普通に「僕」かなと考えたが,「俺」にして,そのアンマッチな感じに「なにが俺やねん!」という読み手に思ってもらえるかと。
(K)雲田さんのイラストは?
(M)「Classy」の連載1回目にキャラクターのラフを出してもらって,完璧だと思った。それ以降は,そのイラストを見ながら書いた。
(K)登場人物の服装とかも設定するのか?
(M)服装とかは全く思い浮かばない。座る位置とかも,読者にとって支障のない場合はどうとでもとれるように書いている。そういう意味では間取りも,自分を高ぶらせるために書いているともいえる。空間把握能力は,漫画家には遠く及ばない。
(K)ネタ帳にあるマス目はなに?
(M)6列×3行で18回分のマス目をつくり,そこに各回のネタを書いていった。
(K)取材メモは別にある?
(M)それは別。でも取材しているときは,特殊な用語や数字以外はなるべくメモをとらない。こちらがメモをとっていると相手が構えるし,雑談や同僚同士の話になりにくいから。だから和やかに話をしておいて,取材が終わったら喫茶店に駆け込んで一気にメモを起こす。(笑)
(K)相手を油断させている?
(M)行儀のよいお嬢さん風に…
(K)職業を扱った小説が続いているが?
(M)書店のバイト以外,長期間の仕事についたことがないので,自分は間違っているという思いがどこかにあって,それで職業に興味がある。
(K)言葉のまちがい(誤った使い方)なんかも書いてあるけど,そういうのは気になる?
(M)気になる。ニュースの表現なんかでも間違いがあるとすごく気になる。あれはアナウンサーじゃなくて,原稿を書く人が間違っているのだと思うけど。
(K)そういう意識って,国文学者でいらっしゃるお父さまからの教育?
(M)全然。うちの父は家庭では全く権威がなくて(以下自粛)

(M)岸本さんの訳した『いちばんここに似合う人』は短編集だが,岸本さん自身がいちばん好きなのはどれか?
(K)「水泳チーム」。これを読んだときに「これを訳さないと死ぬ!」と思った。三浦さんは?
(M)私は「妹」。この妹が,作者自身から一番遠いのではないかと思う。老人のぶっとび方が好き。
(K)三浦さんが「妹」が好きというのはわかる気がする。私の訳すものはなんだかどれも寂しいものが多くて,読んでいて痛いということも聞く。
(M)それは,もともと痛いものをかかえている人が,それにシンクロするような形で痛いと感じるのだと思う。だから,それは誉め言葉であって,ぜひ『いちばんここに似合う人』を読んで傷口に塩を塗り込んでほしい。(笑)
(K)次はどんな本を?
(M)職業ものに疲れてきたので,暗いやつを。たまにそういうものを書かないと,いい人だと思ってなめられるのがいやなので。職業ものを書いてきて,性格の悪さをごまかすのに疲れてきた。

(司会者)女性雑誌に辞書の話を書くことに不安はなかったか?
(M)事前に編集者に「辞書の話を書きたい」と言ったら「何でもいいです」と言われたので書いた。それに,私は何を書いても先方のリクエストとミスマッチになる癖があるので,あまり気にしないことにしている。それに,女性誌の連載だから女性がいっぱい出てきて活躍するというのはおかしい。むしろ男性がいっぱい出てくるほうがいいはず。だからそういうものを書いた。
(司会者)エッセイと小説(岸本さんの場合は翻訳)では言葉を使い分けているか?
(M)小説では,その世界観に合うように言葉を選んでいる。エッセイの文体は,話すようなリズム。私の場合は,脳内に童貞の男子高校生がいっぱいいて,腹減ったとかエロとか頭悪い感じとかそういう次元でワーワー騒いでいる感じ。
(K)私の場合は,絶えず自分にダメ出しする自分がいて,何を書いても片っ端からダメだしをしてくる。少しでも自慢じみたことを書くと,その自分が自分に鉄槌を下す感じ。自慢といえば,女性の書いたエッセイが大方つまらないのは,遠回しにせよ自慢になってしまうからだと思う。
(M)ああ,あの人とかあの人とか…(会場爆笑)

対談のあとサイン会があるというので,遠慮なくサインをいただく。何たるミーハー。

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お二人をナマで見るのは初めてなのだけど,三浦さんは三浦さんらしく,黒の前開きのジャージ(プーマのロゴがピンク色で入っている)にオレンジ色のスカート(銀色のぴかぴかしたラメのようなものがいっぱいついている),岸本さんはオリーブグリーンの九部丈(っていうのかな?)の細身のパンツで,お二人の文章から受ける感じとよく一致している。

また,岸本さんの頭の回転の早さと座持ちがする感じが印象に残った。適切な譬えが思い浮かばないが,学生サークルの先輩とかで,大層頭がよく見目麗しく性格もよいのだけど,話していると独自の世界を持っていて,後輩たちは憧れつつも遠巻きにしている女性というような。

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