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饗宴・ニッツエ(虚子小説を読む会) [俳句]

ハルビンを探訪中の虚子は、田中駐ソ大使の帰任(一時帰国後の再赴任)途中の宴会(送別会)に陪席することになる。

同じ伊予出身と聞いた芸妓久千代に関心をもつ虚子だが、久千代は主賓である田中大使にずっと独占されていて、面白くない…からでもないだろうが、ハルビン駅を発ってモスクワへの列車に乗り込む田中大使の所作は、しょぼくれた感じで描かれている。
こんな話を『ホトトギス』に連載して、もめ事にはならなかったのだろうか。

それはともかく、東支鉄道(チタ-満洲里-ハルビン-ウラジオストク)をめぐるソビエトと中華民国(張学良)との権益争いの様子が描かれていることや(虚子の帰国後に発生した中ソ紛争まで織り込まれている)、陸路で欧州へ向かう多くの日本人にとってハルビンが「最後の日本」(最後に日本的なモノやサービスが得られる町)だったことなど、現在とはまったく違った空間認識ができて興味深い。
「このハルビンにゐる日本人はたしか四千人足らずと聞いた。その四千人足らずの日本人によつて繁昌して行くこの矢の倉(やぶ注:料理屋の名前)を今こゝに何年ぶりかに見るのである。女将の顔の皺も今更のやうに眺められるのである」
引きもせず押しもしないこのあたりの文章は、感心しないわけにはいかない。

虚子が満洲里行きを中止せず、あの途方もない荒野で散文や俳句を詠んでくれていたらとも思う。

ところで、当時の時刻表によると、シベリア鉄道へ直通する列車は週2本、ハルビン発毎週日曜・水曜の20時10分となっているが、この「饗宴」は昭和4年(1929年)6月6日のこととされているので、この日は…
残念。木曜日なので一致しない。


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