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コニー・ウィリス/大森望訳『ブラックアウト』『オール・クリア1』『オール・クリア2』(早川書房、2013)【ネタバレ注意】 [本と雑誌]

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この長編について、何をどう書けばよいのだろう。

タイムトラベルが可能となった2060年のオックスフォード大学から、史学科の学生が調査のために空襲下のロンドンへ行ったが…という話なのだけど、3冊にわたる長い長い物語であるにもかかわらず、読みだしたらやめられないジェットコースターのようなスピード感、細部まで丁寧に書き込まれた戦時下のロンドン、そして、そこで繰り広げられるさまざまな人間の物語…というわけで、腰巻きには「SF」と書いてあるのだけど、SFであり、ファンタジーであり、恋愛小説であり、青春小説であり、プロジェクトXでもあるというような小説(何のこっちゃ)でともかく一気読み。

1冊目『ブラックアウト』の巻末はむろんのこと、2冊目の『オール・クリア1』、さらに3冊目の『オール・クリア2』の途中まで進んでも結末がまったく見えずにヤキモキする。しかし結末が見えてきたら見えてきたで「ええっ!!」の連続で、最後まで目が離せない。そして思いもよらぬラスト。重く、しかし温かい読後感が長く後をひく。
ストーリーの随所に、イギリス好きにはこたえられない小ネタが仕込まれているが、その著者がアメリカ人というのがこれまたびっくり。SF好きでなくてもアングロファイル必読。

この本に惹かれる理由は、たぶん次の2点。
1点目は、困難な状況下でがんばる(それも、硬直せず明るくがんばる←ここが重要)イギリス的なお話が好きであること(ってこの場合、まさにイギリスの話なのでイギリス的に決まっているのだけど)。史学生も、普通の人々も、滑ったり転んだりしながら明るくがんばっていて共感できる。
2点目は、作者もダンワージー教授も史学生たちも、英雄や大政治家や王様でない普通の人々がどんなふうに暮らし、どんなふうにふるまっていたかという点に研究テーマを(ひいては歴史を)見いだしていること(一応歴史人口学の学部生だったので、この視点は外せない)。

その上で、この本の完成度の高さを示しているのが、過去へタイムトラベルした史学生が周囲の人々とかかわることで、現実の世界がどんどん変わっていってしまうのではないか?という困難な問題―作中でも登場人物がこの問題に悩みつづける―に、上の2点とかかわる形で一応の答えを出していること。これが、SFとしての価値を保ちつつフィクションとしてリーダブルなものに仕上がっている理由だと思う。

また、読者の多くは登場人物の誰かに感情移入しながら読むのではないかと思うが、藪柑子的に3人の史学生の中では、やはりアイリーン・オライリー(メロピー・ウィード)かなと。あまりにもイギリス的というか、イギリスの読者がどう思うか聞いてみたい。

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