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宮下奈都『スコーレNo.4』(光文社文庫、2009) [本と雑誌]

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『羊と鋼の森』を読んで、もっと他の作品を読んでみたくなったので。
形容詞や副詞でごまかさない丁寧な描写があり、他方で、意表をついた描写がある。そのリズムが、いわば「宮下節」ともいうべき心地よさを生んでいるように思う。例えば、

(以下引用)
広くなったり細くなったりしながら緩やかに流れてきた川が、東に大きく西に小さく寄り道した挙げ句、風に煽て(おだて)られて機嫌よくハミングする辺りに私の町がある。
(以上引用終わり。p.13)

なんと自由自在な描写。しかもこの川の描写が、最終章までのあちこちで再現されて効果をもたらしているのだ。いいですね。むろん、自然だけでなく、人や物についても同様に、丁寧に描写されていく。それが説明に陥らない点も含めて、ちょっと俳句を連想する。

ストーリーについていえば、作者の意図とは別に、仕事について描いた「No.3」に心惹かれるものがあった。「No.4」が「小説を読んでいる」という感じを受ける(もちろん、とても感じのよい小説ではあるのだけど)とすれば、「No.3」にはそういう感じがなく、すっと入りこめるのだ。もっとも、この点は、読者の年齢や性別や興味によって全く異なるかもしれない。

 
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