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中島京子『樽とタタン』(新潮文庫、2020) [本と雑誌]

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出張に持参した本を往路で読み終えてしまい、現地の本屋さんの新刊台から選んだ一冊。雨が降る寒い日だったのに、復路の電車が暖かく感じたのは、この本のおかげかもしれない。

いわゆる「いい話」とはちょっと違うのだけど、
 ・こどものころのトモコの視点
 ・大きくなって物書きになったトモコの視点
 ・作者すなわち中島京子さんの視点
が巧みに混同というかソフトフォーカスで描かれていて、さらに一つ一つのエピソードも、小説の中でさえも現実であるようなないような、ふわっとしたファンタジー風味になっている(軽いホラー風味といってもよいかもしれない)。この味わいは、単なる懐古とはまったく異なるので、誰でも共感できるとまではいえないだろうが、「過去って、べったりと懐かしいものではなく、そういう不思議な面があるよね」という了解ができる人なら、文句なく楽しめると思う。最後にトモコがその場所を訪ねるくだりは、そっけなく書いてあるだけにいっそう思いをかきたてる。

著者の他の作品を読んでみたくなる一冊。

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