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川端康雄『ジョージ・オーウェル ー「人間らしさ」への讃歌』(岩波新書、2020) [本と雑誌]

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ベストワン確定などと断言してしまうと(前の記事)、その直後にこういう本が現れて、しまったと思うわけで。

オーウェルというと、とかく「1984」の著者という部分が前景化してしまいがち(これは仕方ない)なことから、それ「以外」をきちんと拾って生涯と作品を追っていく試みは、たいへんありがたい。著者は、平凡社ライブラリーの「オーウェル評論集」や岩波文庫の「動物農場」の訳者でもあり、オーウェルについてまとめて講義してもらうには最適の先生のひとりだろう。

全体のストーリーとも関係するが、オーウェルが制作したBBCのインド向けラジオ放送を、海軍軍属としてジャワ島で働いていた鶴見俊輔が聴いていたというエピソード(pp.172-3)が胸アツというか、すばらしい。オーウェル自身は、こんな放送誰も聴いてないだろうと思っていた(仕事自体が、ムダな仕事だと考えていた)らしいが、全然そうではなかったのだ。私たちは、オーウェルの著作から直接に影響を受けるだけでなく、鶴見俊輔の多方面にわたる業績を経由する形でも影響を受けているとすれば、それは素晴らしいことではないかと。 

オーウェルが最後までこだわったdecencyというキーワードは、日本語化するのが難しいことばだが、イギリスの社会を念頭におくと、とても納得できるというか、思想A対思想Bみたいな捉え方でなく、その他のどれでもない(どれとも比較のしようがない)decencyという物差しが、とてもイギリス的だと思う。この本にも出てくる"England, Your England"の、大上段に構えない静かな物言いが、とても好きだ。

ジュラ島への転居、そして死が近づいてくる最後の2章ぐらいは、あえて淡々と書いてあるだけに涙なしには読めない。こんな経過があったのですね。それにしても、なぜストレプトマイシンが効かなかったのだろう?他に治療法はなかったのか?

最後に、腰巻に「オーウェルの憂えた未来に/私たちは立っているのだろうか」とあるのが意味深なのだけど、立っているどころか、その憂えた未来に嬉々として突進してい(以下自粛)
 
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