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藤本朝巳『松居直と絵本づくり』(教文館、2017) [本と雑誌]

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福音館書店といえば松居直、松居直といえば福音館というぐらい有名な編集者で、石井桃子さんや瀬田貞二さんたちとともに日本の児童文学の一角を切り開いたパイオニアでもあるこの人の仕事を、若い児童文学研究者がたどっていく本。松居氏へのインタビューも収録されていて、それが本文の内容と一部かぶっているのはちょっと残念だけど、この記録自体は貴重で、後世に残されるべきものと思う。

いちばん衝撃的なエピソードは、創刊直後の「こどものとも」で、ある有名な文学作品をとりあげる(絵本にする)ことを決めた松居氏が画家に頼みにいく場面だ。売れっ子であったその画家は、しかし病に臥せっていて、松居氏が練馬区の都営住宅を訪ねてご夫人に用向きを伝えると、「○○(その画家の名前)は伏せっておりますので、絵が描ける状態ではございません。」と言われてしまう。しかたなく引き下がろうとすると、奥から「その仕事やる、待ってもらえ」と声がかかり、画家は布団の上に上半身を起こして、「××××(その文学作品の作者)、やりますよ。その仕事やれるなら死んでもいい」と松居氏に言ったという。
(pp.46-47)
この話が衝撃的である本当の理由は、この作品が絵本として実現した直後、この画家がほんとうに亡くなってしまったことにある。本書では「いわば、○○さんの最期の作品です。病を押して描き上げたのには、よくよくの思いがあったからに違いありません。」と控えめに書かれているが、ちょっと戦慄を覚えるような話である。

付言すると、絵本化されたその作品自体が、xxxxが死の床で最後まで手を入れていた作品(かつ、私の好きな作品)なので、何かの因縁ばなしのようで、二重にゾクッとしてしまうところである。

さらにさらに、ある画家がこの絵本を読んで絵本をつくろうと決意し、松居直を訪ねてきて「こどものとも」からデビューする話(pp.140-142)とか、後年自らも絵筆をとって、同じ文学作品を別の出版社から絵本化したというエピソード(pp.48-49)が紹介されていて、よくよく因縁めいた作品でもあると感じる。

こうしたエピソードを措くとしても、巻末に掲げられている「松居直編集による月間絵本『子どものとも』一覧(1~149号)」を眺めると、きら星のようなというのか、今でもよく知られている作品がずらりと並んでいて、すごさを感じる。

 
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