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森枝卓士「カレーライスと日本人」(講談社学術文庫、2015) [本と雑誌]

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面白い。

家庭だろうと町の食堂だろうと社食だろうと、日常的に私たちが親しんでいるカレーが、どのようにしてインドから日本までやってきて、日本でどのように取り入れられて定着したのかを丹念に追いかけていく。イギリスでカレー粉が誕生したいきさつを追究するため、大英図書館でさまざまな一次史料(なかには初代ベンガル総督ヘイスティングスの手紙なんていうものもある)を探し、ついには、イギリスの文献に初めてカレーが現れるのは、これまでの通説よりずっと早い1747年であることまで発見してしまう。

また、日本の社会にカレーが広く普及した理由は、それがインド料理でなくイギリス伝来の西洋料理(洋食)と受け止められていたからだ、という指摘(pp.210-12)は重要。この視点で考えると、ペルー料理でもモロッコ料理でもおいしくいただいてしまう現在の世相は、最近に至ってようやくそういうしばりが緩くなった結果ということになるのだろうか。

松本楼の話や中村屋の話も出てくるが、あの店がおいしいとかこの店はどうだとかいう本ではない。これだけ毎日のように食べているのに、その受容過程がほとんど知られていないことも不思議だが、それを明らかにしていく過程も、またドキュメンタリー番組を見ているような面白さがあった。それは、調べ物をお仕事として義務的にこなすのでなく、「知らないこと」を掘り下げてみたいという明快な好奇心が著者にあるからで、偏見をもたず虚心坦懐にずんずん分け入っていくその姿勢が、読者の共感につながるのだと思う。



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