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梨木香歩『渡りの足跡』(新潮文庫、2013) [本と雑誌]

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俳人にとって渡り鳥は重要な季題(「鳥帰る」「鳥雲に」「帰雁」「残る鴨」などは春、「鳥渡る」「帰燕」などは秋)だが、その出発地や経由地や行き先を実際に訪ねてゆく話。
かれら(渡り鳥)にとってそれがどれほど困難なものであるかが了解されるとともに、渡りが季節と分かち難い関係にあることに、季節というものの奥深さを感じる。また、渡りは移動であるからして、出発地にも到着地にも、等しく季節感をもたらす―それらの間に軽重や貴賎はない―ことも重要。

その上で本書は、鳥の渡りと並行するかのように、ヒトが遠くへ移り住んでいく話を挿入している。これがいずれも重みと深さをもった話で、鳥の話とヒトの話が相互に響きあっている。

叙述とモノローグが混在するような独特の文体は、人によっては気になるかもしれないが、いわばフォントに大小があるようなものと思えば楽に読めるのではないか。ただまあ、この話を池澤夏樹が書いたならば、ずいぶんと違った趣の読み物になっただろうとは思う。

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