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中沢けい『楽隊のうさぎ』(新潮文庫、2014)【ネタバレ注意】 [本と雑誌]

楽隊のうさぎ.jpg

中沢けいが青春小説を書いたら、やはり中沢けい風味の青春小説になる。
ここで中沢けい風味とは何かといえば、
・こころの動きを描くために使われる喩え(ここでは「左官屋」とか「うさぎ」など)が、いくぶんファンタジーの色合いをともなっていること
・視点や時点の切り替えが不思議なタイミングで用いられていること。特に、主人公の視点と著者(語り手)の視点がシームレスに転換している(もっといえば、一体化している)こと
の2点があげられ、こうした風味が、とかくすいすい流れてしまいがちなストーリーを引きとどめ陰影をつける効果をあげていて、好ましく感じられる。
著者の視点が主人公の行動について書いた部分が「○○はできたが、××はできない」という説明口調に感じられる点が若干気になるが、それは、この小説を獲得の物語として考えたときに、それぞれの箇所で何が獲得でき、何が獲得できなかったかという点に重きを置いているということなのだろう。

回収されていない伏線がまだたくさんあるので、続編を楽しみに待ちたい。

蛇足だが、中沢さんは「中学生ってどんな年代なのか」に強い関心を持っているようで、『大人になるヒント』(メディアパル、2008)という著作もある。そこでは中学生を、「世界と出会う、つまり自分と異なる視点を獲得する年代」(こうまとめてしまうと、なんだかありきたりだが…)と捉えているように思われ、それは本書とも共通する視点になっている。

同じ中学1年生を描いた森絵都『クラスメイツ(上・下)』(偕成社、2014)のストーリーの巧みさと比べると、こちらは少し硬質な物語かもしれない。むろん、どちらもそれでよいのである。
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