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ベルナール・オリヴィエ「ロング・マルシュ 長く歩く〔アナトリア横断〕」(藤原書店) [本と雑誌]

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大試験が終わったので、本を読むのがやめられない止まらない状態。

藤原書店が個人の旅行記を出すなんて珍しいと思いながら買い求めるが、読み始めてなるほど納得。ポール・セルーのように斜に構えた感じの楽しさともちょっと違うが、淡々と目の前の現実を描きながら、期せずして文化論にもなっている濃厚な手記だ。徒歩旅行者は毎日一人で歩き続けているから考える時間はたっぷりあるだろうと思われがちだが、実のところ、心配しなければならないこと、例えば道順とか、きょうの昼飯とか、足の痛みとか、宿屋のあり場所とかがいっぱいあるので、そんなに物思いにふけってはいられない(私だけ?)。そんな中でよくいろいろ考えたものだと思う。

欧米人の出来の悪い旅行記にありがちな、上から目線の西洋キリスト教文明とか大量生産文化ゴリ押しではなく、かといって現地現物べったり賛美でもなく(何の理由もなく軍隊に拘束されちゃうのだから、賛美してもいられないだろうが)、そのバランスのとり方は、やはり、人に会って虚心坦懐に話を聞く(聞き出す)という長年の職業人生の成果であるようにも思える。

トルコ共和国のいろいろな側面は、小島剛一さんの著作や村上春樹の「雨天炎天」などにも描かれているのだけれど、ミッドナイト・エクスプレス的な部分が、このご時世にうまく説明がつかない形でむにゅっと存在することが一つの原因であるようにも思う。あとで調べてみたいが、徒歩旅行に使えそうな地図が50万分の1(5万分の1ではなく、50万分の1!)しかなくて、しかもその記述が意図的に不正確であるとしたら、相当奇妙な事態ではある。50万図といえば1センチが5キロになるわけで、細かい道筋など到底わからないだろう。

それにしてもよく歩いている。毎日がロング・マルシュなのだけど、全装備を背負って1日40キロ以上歩くのはけっこう大変なはずで、特にこの人の場合、泊まる場所探しと道迷いの時間も必要(結果的に必要)なので、実際に歩いているときはかなりの快速で歩いていることになる。このあたりも感心するところ。

また、日本語版へのはしがきで、既に日本人徒歩旅行者が2人、東から西へこのルートを歩いていることが紹介されている。その片方が大村一朗『シルクロード 路上の900日』(めこん、2004)なのだが、ふだん学術書を扱っている藤原書店の校正者が調べたのかと思うと、なんとなくほほえましい。

フランス本国では全3巻すでに売られているそうだが、日本語訳の続刊が待ち遠しい。
タイトルには「第1巻」とは書かれていないけど、まさかこれ1冊で終わりということはないですよね>藤原書店さん
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