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Coast to Coast Walk (準備編①) [ウォーキング]

1.パブリック・フットパスのこと

 イギリスについて詳しいわけでもないのにイギリスの何かを説明するのは気が引けるのだけど,Coast to Coast Walk(以下CtoCという。)について説明しようとすると,その前にパブリック・フットパスについて説明しないとワカランチ会長になってしまうので,簡単に(やや怪しい)おさらいを。イギリス好きの方は飛ばしていただいてかまいません。

 パブリック・フットパスって要するに,「誰でも通行できる小径」なのだけど,日本と事情が違うのは,通行できることが「法律に基づく権利」であり,しかも日本の入会権なんかと違って通行権が特定メンバーに限定されていない(従って私のような外国人も通行できる)点である。また,フットパスのあの小径部分が公有地になっていると誤解している人が多いが,土地自体は公有地だったり私有地(農家の庭とか牧草地とか麦畑)だったりするのだけど,その上に「通行することのできるひと筋の通路部分がある」のだ。

 だから,麦畑のど真ん中をパブリック・フットパスが横切っていたりすると,少なくともその小径の幅の部分は麦が植えられないし,小径から雑草が生えれば(これが見事に生える)繁茂して麦に影響しないようにしないといけないし,機械で刈り取る時にも歩行者を巻き込まないように気をつけながら作業しなければならない。土地全体を覆うように家を建てたりすることもできない。それは,その土地の持ち主にとっては幾分いまいましいことであろうと思われ,事実,フットパス通行者に対する反感を匂わせていると思しき場面(ゲートに骸骨の絵が描かれていたことがあった)も稀にあるのだけど,全体としては当然の権利として世間に認識されている。
 従って,くどいようだが,ここで「パブリック」というのは「オフィシャル」(官製の)でも「プライベート」(個人や私企業の)でもない,真に公共の,という意味なのである。これは他の多くの局面でも現れる,極めてイギリス的な思想だと思う。

 で,この権利は通行することのみを認めているから,当然,パブリックフットパス上で宴会を開いたり野宿をしてはいけない(するとどうなるのか知らないけど)。また自転車や馬で通ることもできない(パブリックフットパスの一類型であるpublic bridleway(後述)では馬の通行も可能)。弁当をつかうのはどうなのだろう…よくわからないが,長時間でなければいいのではないだろうか。少なくとも私は,弁当をつかって文句を言われたことはない。

 また,いわゆるパブリックフットパスは,細分すると3種類からなり,
 ・フットパス(人と犬しか通れない)
 ・ブリドルウェイ(馬とか自転車も通れる。ただし人が優先)
 ・バイウェイ(バイクや四輪車も通れる。ただし人が優先)
の順で大きな通路になる。日常よく見かけるのはフットパスとブリドルウェイである。
P1030449.jpgP1030225.jpg
(↑左側がpublic footpath,右側がpublic bridlewayの標識)


2.Coast to Coast Walk (CtoC)のこと

 このようなパブリックフットパスが国じゅうに網の目のように通っているため,また急峻な山地があまりないため,イギリスでは「ほとんどパブリックフットパスだけを通って遠くまで歩いていく」ことが可能である。従って、特段CtoCと銘打たなくても、適当にフットパスを歩いていけば西海岸から東海岸へ、あるいはその逆へ歩いていくことができるわけだ。

 そうしたフットパスの中から、特に景色がよく楽しいルートをつないで(選んで)CtoCという名前をつけ、世の中に広めようとしたのはイギリス政府でも広告代理店でもなく、湖水地方のケンダルという町で教師をしていたアルフレッド・ウェインライトという人物だった。イギリスの他の長距離トレイルには国が認定したものもあるのだけど、純粋に一個人が提唱したトレイルが英国の最も人気ある長距離トレイルとなっていることは特筆されよう。

 もっとも,このトレイルが英国でもっとも歩くのにふさわしい地域を横断していることを考えれば,このことは驚くにはあたらないかもしれない。カンブリア州の海岸にあるSt.Beesの町から,北海に面したRobin Hood's Bayまで192マイル(307キロ)のルートのほとんどは,英国のすてきな国立公園―the Lake District,the Yorkshire Dales,the North York Moors―を通っている。またいくつかの部分では,メインルートの他に別ルートも用意されている。

 ということで若干補足すると,以前から湖水地方の岩山歩きを愛好していたウェインライトがCtoCというルートを提唱したのは1970年ごろとされる。現在も改版されてLincoln社から出版されている「Coast to Coast Walk」の初版がウェストモーランド・ガゼット社から出版されたのは1973年3月で,その細密な手描きの地図や山の風景はすばらしい。日本でこれに匹敵する手描きの地図といったら,冨永省三さんの「スーパーマップ」ぐらいしか思い浮かばない。
CtoC_Lincoln.jpg
(↑現在Lincoln社から出ている,ウェインライトによるCtoCの案内書。手描きの地図に加えてフォントも手書き風のものが使われるなど,凝ったつくりになっている)

CtoC_aurum.jpg
(↑こちらはAurum社から出ているCtoCの案内書。国土地理院の2万5千分の1地図を使ったオーソドックスな作り)

 1993年に湖水地方をたずねたとき,ウインダミアの本屋にウェインライトの著作が並んでいるのを見て初めてCoast to Coast Walkの存在を知り,それから20年近く「いつかは…」と思ってきたのだけれど,ことしようやく挑戦することができたという次第。


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