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春めくや夜の歌とは愛の歌 [俳句]

いつも拝読しているGO! LEAFS! GO!さんの句評があまりにもデタラメなので(笑)私も参戦。

春めくや夜の歌とは愛の歌 前北かおる

(句集『ラフマニノフ』183頁)

rachmaninov.png

季題「春めく」で春。

暗く寒い冬が長く続いたあと,ようやくそれが緩んで春らしくなってきたけれど,「夜の歌」とはとどのつまり,愛の歌なのだと感じられ,そこにまた,この春らしくなってきた日々に通じるものがあって,改めてもう春だなと感じられたことであるよ。

句集でこの句を読んだときには,前書に読響定期演奏会と書いてあるので,何かの曲のことを「夜の歌」と叙しているのだろうと思ったが,違う解釈をして(下に記す)飛ばしてしまった。ところがコメント欄を読んでいたら,マーラーの7番だとあるではないか。うーん。確かに,マーラーの7番には「夜の歌」という通称があるのだけど,めったに演奏されない(私は一度もナマで聞いたことがない)曲なので完全にノーマークだった。

で,掘り下げて句評を考えてみると,この句を鑑賞する上でポイントになるのは,
1)「夜の歌」でマーラー7番というのは無理がないか
2)「夜の歌とは愛の歌」の句意は明瞭か
3)春めくやという季題と,「夜の歌とは愛の歌」のかかわりは適切か
という3点になるであろう。以下順に管見を。
(その前にあらかじめ白状しておくが,マーラーは全く不得意なので,的外れなところが多々あると思われる。ご勘弁を。)

まず,「夜の歌」ということばからは,夜を描いた音楽全般,あるいは夜に奏でたり歌われたりする音楽全般が想像される。だから,「マーラー7番→夜の歌」という連想はその通称からしてありうる(本当はちょっと問題がある)が,「夜の歌→マーラー7番」という連想を読者に求めるのはちょっと無理があるように思う。
私が連想したのは,ノクターン(夜想曲)かセレナーデ(小夜曲)かな,ということだった。前者ならボロディン(の弦楽四重奏曲)とかショパン,後者ならモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」なんかがすぐに連想され,「夜の歌とは愛の歌」が了解されるのだけど―というより,セレナーデはもともと「愛の歌」なんだけど―オーケストラの定期演奏会で演奏されるとは考えにくいなあ…と考えているうちによくわからなくなり,次の句へ意識が飛んでしまった。

次に,「夜の歌とは愛の歌」の句意だが,夜想曲とか小夜曲だと,誰でも連想できて「つきすぎ」になってしまうのだが,マーラー7番を愛の歌と感じたというのはたいへん斬新でいい(あの曲はややこしいから,そう感じるのはかなり意表をついた感じ方であるように思うので,斬新でいいということ)。そういう先行例がないかちょっと心配だが,そこは調べておられるのであろう。

最後に,「春めくや」という季題とのかかわりだが,これは微妙。「草の花」「春の暮」「冬近し」ではダメとも言い切れない。では「春めくや」が効果をあげていないかというとそうではなくて,確かに,季節という回り舞台が冬から春へゆっくり回り始めている局面(「下萌」とか「山笑ふ」のような季題のニュアンスに近い感じ)で詠まれることで,一定の効果をあげていることは感じられる。

ということで,この句は以前に感想を書かせていただいた
惜春の心ラフマニノフの歌 や
夕涼の雲より淡くドビュッシー
にくらべるとかなり入り組んだ句なのだけど,自解をいただいたことで一層考えさせられてしまった。


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コメント 4

GO!LEAFS!GO!

適当な句評に対して、懇切丁寧な細く有難うございました。
結局、良くわからないけどリズムが妙によい。
という結論で良いと思います。俳句は何も言っていない句がよい、
というのが私のトレンドです。
by GO!LEAFS!GO! (2011-11-12 20:03) 

前北かおる

 ありがとうございます。
 マーラーの7番は、第2楽章、第4楽章に「夜曲」が置かれていて、それが曲の副題にもなっています。マンドリンも出てきたり、いわゆる「セレナーデ」です。ただ、俳句自体は広くノクターン、セレナーデと解釈されることを狙って詠みました。「春めくや」と大きく打ち出すことで色々ごまかしたつもりですが、どうでしょうか。
by 前北かおる (2011-11-14 23:21) 

やぶ

Go! Leafs! Go! さん,こんばんは&コメントありがとうございます。
トレンドについては知るところではありませんが,「何も言っていない句がよい」というのはある種の真理かもしれませんね。何か言おうとしすぎる俳句に辟易すると,特にそう思います。
by やぶ (2011-11-16 00:10) 

やぶ

かおるさん,こんばんは&コメントありがとうございます。

第2楽章と第4楽章の副題は,たしかマーラー自身がつけたのだと記憶しています。ところが全体にも「夜の歌」というタイトルは後から?つけられたものだということ,しかも第5楽章がなんともいえないあの音楽なので,音楽好きの俳句詠みとしてはそこが落ち着かないのですね。

ノクターンと解釈されることを狙うと,どうしても前書とぶつかってしまいますよね。オーケストラの定期演奏会でピアノ協奏曲はあってもピアノソロはまずないので。そうすると残るのはセレナーデかな。「春めくや」と「夜の歌」と「愛の歌」,ちょっと近すぎるような,でも「春めくや」のニュアンスに響きあうものは確かにある気がします。このあたり主観的な話ですみません。また後日。
by やぶ (2011-11-16 00:20) 

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